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SPARKの新刊 きらきらひかる

●きらきらひかる A5 p80 800円  表紙mk様
hanayome11宣伝用


 リクつら祝言本。
 あらすじと本文見本は、以下に入れておきます。
 ※完売しました
【あらすじ】

 葵螺旋城での死闘が終ってから1年以上、中学3年生になったリクオは、やっと口説き落としたつららに夢中で、つららの部屋に入り浸るを通り越して住みついていた。
 毎日イチャラブを堪能して幸せなリクオだったが、下僕たちから「総大将としてケジメをつけてくれ」と嘆願され、つららにプロポーズするが……
 
 イチャついたり、拗れたり、嫁入り準備でつららが雪女の里に帰ってお互いを恋しがったり、バトルがあったり、白無垢だったりする、リクつら祝言話です。



【本文見本】

 瞼の裏で小さな光が瞬いた気がして、心地良い気怠さに包まれてうっとり沈み込もうとしていた意識が、微かに浮上しました。
 刻み煙草の匂いがしたのでそろそろと指先を伸ばすと、触れるのは、案の定、冷えたシーツばかり。
 瞼を開けると、寝間着を肩から引っかけ窓の外の十六夜の月を眺めて一服している後姿が、逆光で影絵のように見えました。満足げな笑みを浮かべた薄い唇から、細く煙が揺蕩っています。
 んもう。夏の間は庭掃除や買い物を免除してもらう代わりに部屋に籠って出来るお針仕事をたくさんしますから、匂いが付かぬように私の部屋では吸わないでくださいね、とお願いしたのは昨日で、その時は「わかったわかった」なんておっしゃっていたのに。それに、私と共寝する時はどうしてもお身体が冷えてしまいますから、終わった後はちゃんと寝間着を着てくださいとも、何度もお願いしていますのに……どうしようもない方。
 窓を開けたのはせめてもの配慮のつもりなのかもしれませんが、羽織るだけでなくちゃんと帯を締めて、縁側に出て吸ってくださいよ。
 衣擦れの音をさせぬように身を起こし、お仕置きに、氷点下に冷やした手ですっかり油断しているその首筋に触れて驚かしてやろうかと思ったのですが、後姿があまりに気が抜けた様子なので、その気が削がれてしまいました。
 かろうじて裸ではないけれど帯も締めておらず、だらしなく柱に寄り掛かって、ゆっくりゆっくり煙を吐き出しながら、今にも眠りに落ちそうなぐらいぼんやりしている姿は、お世辞にも格好良いとは言えません。ですが、だからこそ、私の胸に愛しさがこみ上げてくるのでした。
 あなたは、多少悪戯好きな所はあるとはいえ、真面目で誠実な方です。まだ14歳という若さで、双肩に我ら百鬼を背負い、人の世と妖の性の均衡を保つことを己が使命と定めて、前を向いて立っていらっしゃいます。己の意思だ、己で選んだことだ、お前たちが好きでずっと一緒に居たいんだよ、とおっしゃって。
 そのお言葉に嘘が無いのは知っておりますとも。けれどね、己が背負うモノの重さに苦しむ様を見せぬようにしていらっしゃるのも、知っているのですよ。
 あなたの優しさが、主に身も心も捧げるからこそ主無しでは立てぬ我ら妖の在り様を理解し、闇が薄らいだこの世界で我らの寄る辺となるべく、百鬼の主としての顔を崩さぬように振る舞わせていることを。
 だから、普段は、お酒に酔っていらしても、もう少しちゃんとしていらっしゃいますね。背筋だってピーンと伸びていて、格好良いです。
 故に、私は、今、あなたがこれほど無防備な姿でいらっしゃるのが、嬉しくてならないのでした。
 此処は私の部屋。私の領域。
 重い責務から逃げぬ愛しくも誇らしい殿方に、お前の領域では一切気を張る必要が無く寛げるのだ、と態度で示されて、嬉しくない女がおりましょうか。
 こんなだらしない姿を見せられる度に、私は、可愛いあなたをもっともっと甘やかして、もう二度と私から離れられぬと言わせてみたくなるのですよ……閨の闇の中で漏らす戯言でいいから。
 私は、四つん這いになってそろそろとあなたの背に近づき、ぺたりとくっつきました。
ああ、温かい。以前に比べれば畏れの調節が上達したとは言えどもやはり熱を厭うこの身ですが、あなたが齎す熱だけは、いつも好ましいです。融けてしまってもいいから、もっともっとと欲しくなる程に。
「つらら?起こしちまったか?」
 振り向かずに月を眺め続けるあなたが何だか恨めしくて、私は腕を回して抱きつきながら、広い背中に頬っぺたを押しつけます。
 すりすり。
 すりすり。
 ……リアクションがありません。
「リクオ様、礼儀知らずですよ」
「ん?」
 厚い胸板に手を伸ばして筋肉の付き方を確かめるように撫でながら、肩の上に顎を乗っけても、あなたはこっちを向いてくれません。つれないです。
「女の部屋に通うならば、部屋の中に居る間ぐらいは、女のことしか見えぬふりをしてやるのが礼儀というものです。私の部屋で私に背を向けて他を見つめるなど、憎たらしい方」
 怨ずるふうに口にしてみると本当に悔しいような心地がしたので、頬を抓ってやろうとしたら、骨ばった大きな手に包みこまれてしまいました。
「おいおい。お前が焼き餅焼きなのは知ってたが、お月さんにまで嫉妬すんのかい?」
「ええ。致しますとも。嫦娥も赫夜姫も、手段を選ばぬ女ですもの。油断できません」
 やっと振り向いてくださったあなたと指を絡めながら、半ば本気で私は言いました。
鵺をも下し全国の親分衆にも認められたあなたは、この若さにして名実共に魑魅魍魎の主であられる。なのに、私は、一介の雪女に過ぎません。現在、側近頭という地位を賜り、寵を受けてはおりますが、あなたと私とでは、夜空を照らす月と一片の雪のように、まるで不釣り合い。
 だから、私はいつだって、もっとあなたに相応しい方が現れてあなたが去っていくのではないか、という不安を拭いきれないのです。
 臆病故に無意識に抑制して眼差しの熱さに気づかなんだ頃とは違って、さすがに今では、あなたときたら、私の部屋に通う、を通り越して私の部屋に住んでいるような有様ですから、己が女として求められていることを疑ったりは致しませんが、それでも、先のことはわからぬもの。
 赤子のあなたをあやしている時、いずれこんなふうになるなんて、思いもしなかった。鯉伴様と山吹乙女様だとて、祝言を挙げた頃には、あのようにお別れするなどと考えもしなかったはず(少なくとも、鯉伴様は)。
 私はあなたよりいくらか長く生きているので、知っているのです。良きにつけ悪しきにつけ、留まる事無く時は流れ、世は移ろい、心もまた、それらの影響を避けられないということを。
 ああ、あなたの熱い腕に抱かれる女が、ずっとずうっと、この先も未来永劫、私だけならいいのに……
「天女さんらは妖怪なんざ相手にしねぇだろ。こっち見てるとしたら、桂男ぐらいじゃねぇか?」
「リクオ様?」
 月の影に棲まうと言われる妖怪の名を口にしたあなたが急に立ち上がったので、私は、一瞬、この部屋を出て行ってしまうのかと焦りましたが、それは違いました。
 あなたは、煙草盆に灰を捨ててぴしゃりと窓を閉め、私をひょいと抱え上げて布団に戻り、寝間着の帯を解き始めます。
 夜姿の瞳の色は金と紅の2種があって気紛れに変化しますが、今宵の色は黄金。真昼の太陽のようなその色のせいか、寝間着を剥がれて一糸纏わぬ姿を見つめられると、陽光を浴びたアイスクリームみたいに溶けちゃいそうになります。ああ、眼差しが熱い。
「桂男なんぞにお前の雪肌を見せてたまるか」
「あらあら。リクオ様も焼き餅焼きですこと」
「似た者夫婦ってやつか?」
「夫婦だなんて……ぁんっ」
  明日、というかもう今日ですけど、平日です。日直も引き受けていたはず。だから、早く寝るように諌めて拒むべきなのはわかっていましたが、どうにも、身体が上手く動かせません。私の腕ときたら、あなたの頭を抱え込むように抱き締めてしまって………

 数時間後、私たちは、目を擦り欠伸をしながら、手を繋いで通学路を走っていました。





「……近頃のリクオ様をどう思う?」
 手を繋いで駆けて行く奴良組三代目と側近頭を見送った玄関で、鴉天狗は、今にも唸り出しそうな顔で腕を組み、ぽつりと呟いた。
「鴉天狗様、『どう』とは、どういう意味でございましょうか?リクオ様は、傘下に気を配り、他所の組とうまくつきあい、総大将としての務めを立派に果たしてらっしゃると思いますが」
 慎重に返答したのは、鴉天狗からお目付け役の業務を引き継ぎつつある首無だ。そろそろ誰ぞが何かを言い出すだろうと半ば予想していた首無は、秀麗な面ににこやかな笑みを浮かべながら、質問に質問を返す、という技を使う。
「だが、ケジメはつけておられんな。女の部屋に通うならまだしも、住み着いてしまうというのは、な」
 しかし、お目付け役として何百年も本家と貸元衆の調整を図ってきた鴉天狗は、一筋縄ではいかなかった。あえてキツい物言いをしてみせると、首無の薄っぺらい愛想笑いなどはあっさりと崩れてしまった。
「…いかに鴉天狗様であろうと、聞き捨てならないお言葉ですね」
 首無にとって、つららは、大事な同僚であるだけではなく、恩義ある雪麗姐さんの娘であり、成長を見守ってきた姪っ子のような存在。なので、庇ってやらねばと力が入り、目つきが鋭くなる。
「首無、おぬしは、自分が思っておるよりも、わかっておることを知らぬふりするのが上手くないぞ。そういうのは、毛倡妓の方がずっと上手いから、せっかく夫婦になったことだし、そっち方面は任せてしまえ」
「毛倡妓は関係が無いでしょうっ」
 昨年やっと嫁にもらった恋女房の名を出されて、首無は声を荒げる。優しげな面立ちからは意外なぐらいに激しやすい性質であるこの男は、この所、周囲が、結婚に至ったからこそ気兼ねなく、長過ぎた恋人期間についてからかってくるので、妻の名を出されると導火線が短くなっているのだ。
「あら、私がどうかしました?」
 夫の声を聞きつけて、毛倡妓が現れた。からかうのが目的ではなく真剣に相談したかった鴉天狗は、これ幸いと、より適任である女怪に話を振る。
「毛倡妓、嫁入り前の若い娘が、あからさまに部屋に男を引っ張り込み、挙句、部屋に住まわせておるなど、身持ちが悪いと陰口を叩く輩が現れそうだとは思わぬか?特に、相手が、魑魅魍魎の主で、その気が無くとも娘共を魅了してしまうような、若く美しく強い男であった場合は」
「あらあらぁ、鴉天狗様にそんなお耳汚しな噂を囁いたのは、どの組の何てお名前の方なんでしょうねぇ?どういう見解で口になさたことか確かめとうございますので、よろしければ、その方のお名を教えていただけませんでしょうか?」
 かつて秋月楼でお職を張っていた毛倡妓は、言葉の裏に隠された相手の真意を読み、意図を汲んで動くことが出来る敏い女だ。故に、可愛い妹分であるつららが、妖怪社会で現在1番人気の玉の輿を見事射止めた(というか射止められたのだが)為に嫉妬で悪評を立てられそうだ、という事態を見抜き、即座に対応を申し出た。
 だが、鴉天狗は首を振る。
「1人2人だったら、これまで通りおぬしの采配に任せるわい」
 鴉天狗は、堅物で有名な長男のように真面目一辺倒というわけではなく、破天荒な初代の世話をしてきただけあって、案外に柔軟だ。既婚者で恐妻家でもある彼は、女同士の諍いには、時に、男が介入すると余計拗れる事案があることを、よく弁えていた。だから、そういった場合は、雪麗が本家に居た頃は雪麗に、以降は毛倡妓に、任せてきたのだ。彼女らは、当事者に直接釘を刺したり、周囲の者に対応を言い含めたり、女衆の噂で印象操作をしたりして、実に上手く揉め事を片づけてくれた。
 しかし、今回はそれでは済まぬようだと気づいて、首無も毛倡妓も顔色を変える。
「それじゃ……」
「首無、主だった者を集め、この件について話し合い、下僕の総意を纏めて、リクオ様に奏上せよ」
 こうして、当事者たちが学校に居る間に、奴良家では総大将の恋愛について会議が催されることとなったのだった。






「リクオ様、大事な話がございます。お時間を拝借出来ますか?ああ、つらら、お前も一緒に」
 玄関を潜ると、首無が妙に改まった口調で話しかけてきたから、ボクは、いつも通り自室でつららに手伝ってもらいながら着替えを済ませた後、いつものようにつららの部屋へは行かずに、首無を招き入れた。
 待っている間に茶を用意していた首無(相変わらず細かいとこ気が利く)は、手伝おうとするつららを制して3人分の茶を卓に並べ、話を始める。
「この部屋でリクオ様のお姿を見るのも、久しぶりですね。最近、リクオ様は、食事・入浴・来客への応対以外で本家にいる時間のほとんどを、つららの部屋で過ごしておいでですからね」
「他の者なら兎も角、ボクの代のお目付け役になろうというお前に、もったいぶった物言いをされたくないな。論旨を率直に述べてくれ」
 貸元などが相手ならボクもこんな言い方はしないけど、この先長く腹心として最も身近に仕えてくれる(つららは別カウント)首無相手に腹の探り合いなんか時間の無駄なので、ボクは本題を急かした。
 しかし、急にどうしたんだろ?
 首無は、ボクとつららのつき合いについて、ボクらが男女の仲になったと気づいた当初こそ「まだ早過ぎる」とかブツブツ言ってたけど(変なとこお堅い)、元々は可愛い妹分の恋心が報われるように願っていたから、基本的には応援してくれてるはずなんだけどな。
 隣を見ると、つららが不安そうに眉を寄せていたので、こっそり、卓の下で手を握っておいた。
 大丈夫だよ、つらら。何が起こっても(それこそ、鵺クラスの敵が現れたって)ボクらは、未来永劫一緒だからね。
「ならば、率直に申し上げます。リクオ様、最近、あなたの所業が噂になっており、このままでは『噂』を通り越して『悪評』となりそうです。どうぞ、奴良組三代目として、ケジメを付けてくださいませ」
「ボクの所業って……」
「リクオ様の外堀を埋める手際は完璧でした。元々、つららの忠誠心に非の打ち処はないのですから、上手に喧伝し、側に置く大義名分を用意すれば、非難はされ難い。側近頭発表と反リクオ派の追い込みを同時に行ったのも、リクオ様のご意向に逆らう者へ覚悟を強いるという意味で、ある種の見せしめのような効果を上げたことでしょう。その後は文字通り常に側に置き続け、2人揃っているのが当たり前という感覚を皆に植え付けたのも、お見事な手腕。全国の親分衆の前で、堂々と、つららだけを特別扱いなさったのも、十分な効果を上げましたとも。さすがです、リクオ様」
 なんか、変な褒められ方だな。いや、首無が言ってることは間違ってないんだけどさ。
 そう、ボクは、京都で土蜘蛛に浚われてつららへの想いを痛感したから、以降は、かなり頑張った。と言っても、山吹乙女さんという前例があった為に、狐の呪いの解除が確認出来るまでは、つらら本人に対して決定的な言葉を口にすることは出来なかったんだけどね(逃げられたら堪らない)。
だから、その代わり、他の誰もちょっかい出してきたりしないように、後になってボクの意図につららが気づいても逃げることなんか出来ないように、イロイロ画策しておいた。
今や、つららは、『奴良組三代目奴良リクオの女』として妖怪社会の隅々まで名が知れていて、夜の化猫横丁を1人で歩いていてナンパされたとしても、名を名乗れば、ナンパしてきた方が「三代目の女に手を出すつもりありませんでしたぁっ!」と土下座してくる状態。
 首無の言い方だと、『ザ・つらら包囲網』て感じで悪行みたいだけど、ボクにはつららに惚れられてる確信があったわけだし、今は結ばれて幸せなんだし、ちょっとイロイロ企んで囲い込んだことなんか赦してもらえるよね、と甘えたことを考えながら隣を見たら……つらら、ぱちぱち瞬きしながら不思議そうに首傾げるの止めなさい。けしからん可愛さだから。
 どうやら、つららは、首無が暴露した『ザ・つらら包囲網』には全く気づいていないらしい。うーん、鈍い。知ってたけど、本当に、つららは、雪女だってことが信じられないくらい、ラブ感度が悪いよね。
 この無闇矢鱈と高過ぎる鈍感力には、ボクも大変苦しめられた。抱き締めようと伸ばした手は気づかれないままスルーされ、口説き文句は超訳され、他の娘との仲を誤解され、……本家の住人からの惜しみない協力を得ても尚、お互いに好き合っているはずのボクらの想いが通じ合うには、それなりの時間が掛ったよ。
 もう、何度、煮詰まって、「どうせ両想いだし嫁に貰うし、ちょっと順序変わるぐらいいんじゃね?」と押し倒して既成事実から事を始めそうになる夜のボクを制したことか(脳内会議連日大荒れ)。
 うん、大変だったよ。まぁ、今は、毎日が甘々イチャラブで幸せだから、いいんだけどね。昨夜も、終わった後で月を眺めて一服してたら、つららの奴、月に嫉妬しちゃってさぁ……
「ですが、その後のなさり様はよろしくない。リクオ様、色恋は狩猟とは違うのです。捕らえて食べて、それで終わりじゃありません。むしろ、農耕です。種を播き、水を与え、日を浴びせ、雑草を取り除き、害虫から守り、細々な手入れをしてやっとの思いで収穫し、そしてまた種を播く、その繰り返しです。実りが多い年ばかりではありません。洪水・旱魃・地震など、予期せぬ災害が訪れることもあります。それでも心折れずに続ける、それが、『2人で恋をする』ということなのです」
 まだ首無の真意が読めないんだけど、婚姻という形で束縛せずに1人の女を300年も繋ぎ止めてきた男の言葉なので、なんか、やたら説得力があるなぁ。つららは感動したらしく、隣でうんうんと頷いている。
 首無は、まだ少し熱い茶を一気飲みしてから、居住まいを正し、まっすぐにボクを見つめて本題を切り出してきた。
「以上を前振りとして、本日、私・毛倡妓・鴉天狗様・青・黒・河童・三羽鴉・邪魅、というメンバーで話し合った結論を申し上げます。リクオ様、つららと結婚してケジメをつけてください!」
 はぁああっ!?
「ななななななんっ、なんなんでそんなっ!?」
 思いっきり噛みながら叫んだのは、ボクじゃなくて、つららだった。元々慌てん坊で動揺し易いつららは、何故か立ち上がろうとして、膝を思いっきり卓にぶつけてしまう。
「…つらら、落ち着いて。首無も、緊張したのはわかるけど結論ワープさせないで、もうちょっと聞く人の身になって話を組み立ててくれ」
 ボクは、つららが最大限に慌てたので逆に冷静になって、涙目になって膝を抑えてしゃがみ込んだつららの頭を撫でながら、能面のように顔面が硬直している首無にも声を掛けた。
「……いえ、あの、奴良組内外で、リクオ様を狙っている娘は山のようにおりますし、己の娘や姪やらを奴良組三代目の妻にして権勢を得ようとする不届き者もいるわけで、そういう者共が、リクオ様がつららの部屋に入り浸るを通り越して住みついている状況について、悪意ある噂をバラ撒こうとしてきてですね、リクオ様は男だからよろしいかもしれませんがつららは嫁入り前ですから問題ではないかと、じゃあ嫁になっちゃえばいいじゃないとか毛倡妓が言い出してですね、なんだか満場一致で、その……」
 ちっとも要領を得ていないが、とりあえず、経緯はわかった。なるほどね。
 つららを口説き落としたのと結ばれたのは、同じ夜のこと(ぬらりひょんは、代々、お預けが出来ない妖怪なんだよ)。
 初めて肌を合わせ同じ褥で迎えた朝の、何と芳しく美しかったことか。この先何百年生きても、この朝を忘れることはないだろう。それまでも最大限につららを愛していたはずなのに、以降は、より一層恋しくなった。
 恋しさに任せて、掃除だ洗濯だ夜食の差し入れだと部屋に訪れるつららを、連日この腕に閉じ込めてしまったのは不可抗力だよね。恋は罪じゃないもん。
 そもそも、ボクを虜にしたのはつららなんだし、責任取ってもらわないと。
 だけど、ボクの部屋で何度事に及んでも、つららは、夜中には自室に帰ろうとするので、最初の1回以外は共に朝を迎えることはできなかった。それが不満で問い詰めてみたところ、「……外聞が良くないですし、女には支度とかイロイロあるんです」と言われて、ボクは考え方を変えることにする。
 つららは、ボクの服の洗濯だの部屋の掃除だの食事の用意だの護衛だのと、1日中ボクに振り回されまくって自室で自分のことをする時間が少ないんだから、ボクの部屋に拉致しては可哀想だ→だけど、ボクは可能な限り一緒に居たい→だったら、ボクがつららの部屋に行けばいい、という結論になったわけだ。
 それからは、つららがどれだけ「自分のお部屋に戻ってください」と言ってもぬらりくらりと誤魔化し、鴉天狗や首無の説教は無視して、可能な限りつららの部屋で時を過ごし、皆がこの状況に慣れて受け入れざるを得ないようにしてやった。
 最初は皆に驚かれ、次に呆れられたが、そのうち、うちは初代も二代目もああだったので、「そういや、奴良家の総大将ってこうだったな」と思い出したらしく、この状態が当たり前になった。
つららは、最初戸惑っていたが、子供っぽく甘えてみたり、甘くエロく迫ってみたり、ほのぼのと和やかな雰囲気にしてみたり、しんみり語ってみたり、と手を変え品を変えて心を解してやると、やがて慣れて、ボクが同じ部屋で寝起きすることの抵抗が無くなった。
 こうして、ボクは、『通う』を通り越して、つららの部屋に住み着くようになったわけだ。
 最近なんか、ボクは、自分の部屋には、着替えと何か取りに来る以外の用事で入室していなかったぐらいだ。
 ……改めて冷静に己の行いを省みると、もっと早く悪評が立っていてもおかしくないな。
 でも、つららと同じ部屋で暮らす幸せを一度味わってしまうと、もう、元には戻れない。
 これまでだって、つららはボクの部屋を管理してたし、一緒に過ごす時間も多かったけど、やっぱり違うんだよ。
夜明け頃にふいに目が覚めると、闇が薄らいだ部屋で、つららがすやすやと眠っているんだ。数時間前にボクを狂わせた雪女の色香なんか拭い去った、子供みたいにあどけなく安心しきった寝顔で。絹糸みたいな黒髪を撫でても、白桃みたいな頬に口づけても、激しい運動で疲れたつららは、ちっとも起きやしない。長い睫毛を伏せたまま、さくらんぼみたいな唇からうにゃうにゃと寝言を漏らすだけ。 
宵っ張りの妖怪も早起きの妖怪も皆眠っている静かな夜明けに、つららが、ボクの腕に己の全てを預けて、安らかに眠っている。
この一時が、どれほどボクを幸せにするか、うまく言葉では表現出来ない。
 これまで味わった痛みも苦しみも悲しみも全てが癒され、人と妖の境界を守るという己に課した責務の為に鎧を纏っていた心が、ゆるゆると解けて満ちてゆく。つららを抱いたまま再び目を瞑り、ひたひたと押し寄せる眠りの波に身を任せる一時、どれほどに、人と妖の間で揺れ動く魂が憩い、安らぐ。ボクが血に塗れてでも守りたかったのは、欲しかったのは、結局の所、この安らぎだったのかもしれない。
だから、手放すのはもう無理だと思うんだよね。
 首無がここまで言うということは、噂は裏で処理出来るレベルを超えていて、早急に明確な対処をしなければつららの名誉を傷つける、という状況なんだろう。それだけ悪質なら、ボクがつららの部屋から出て行っても、今度は、「弄ばれた」とか「捨てられた」とか噂されるに違いない。つららの名誉とボクの幸せを守る手段は、もはやたった1つ。
だから、ボクは言ったんだ。
「つらら、結婚しよう!人間として籍を入れるのはまだ無理だけど、出来るだけ早く祝言を挙げよう!」

 つららの返事は、夏なのに吹き荒れる吹雪と身体が埋まる程の豪雪だった。



 続きは、本にてどうぞ!
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