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世界の敵

 シャーマンキングで、葉アンナ←ハオです。
 見よ、この地に残る神の爪跡を。
 如何程の怒りを持って幾度人が罰されたかを、汝らは知るべし。
 定められし清らなる子らよ、心得よ。


神、地にいまし。楽園は朽ちおち、天は燃ゆる。
 汝ら、何処に還らんとす?














 いささか怠惰な午睡から目覚めたアンナは、ゆるゆると身を起こす。天井の高さが見慣れたものでないのには目覚める度に違和感を覚えるが、ベッドで眠ることにはもう慣れた。突然夢を断ち切った感触は後ろ頭辺りにこびり付いているが、頭をブンブン振って、コレを振り払う。
 昼食を食べてしばらくして眠りについてしまった身体には、余力が残っている。今現在、お気に入りの年下の少女が精魂込めて夕食を作っているだろうコトを考えると、夕食までに、僅かであっても胃に食物が入る余地を作っておくのが礼儀というものだろう。
 少し肌蹴てしまった着物を直して、髪を梳き、彼女は部屋の戸を開けた。




全くもって皮肉な現象と言う他ないが、アニミズムの極地であるところのこの地に置いて、アニミズムを体現する者達を収容する施設は、世界各地のアニミズムにおいて必須とされている要素である【火】を欠いている。
 砂と砂利の混合物にセメントと水を加え固めて出来るコンクリートは、【地】と【水】の要素を得ていると言うことができよう。そして、引っ張り力と熱膨張率と酸化の関係からコンクリートの建物に多用される鉄筋は、【金】の要素となる。【風】が何処に在るかと問われるならば、この、やったらめったら隙間風の多い建物(風通しがよいなどという次元は遥かに通り越している)に窓と戸が多いことで答えが出せるのではないだろうか。
 そうなると、【火】が足りない。
 500年前に唾棄すべき大量殺人者に奪われた【火】が、足りないのだ。
「だからこの建物は寒いのね」
 なんて、彼女は、安っぽい鉄筋コンクリートのにわか造りの建築物を評してみる。
 所詮は、傍らに在るべき存在を欠いている現状に対する欺瞞にしか過ぎないが。
 安価であることを至上の条件として防音など二の次で製作された建物に響く、一人分の足音が、所在なさ気だ。
 かんら。かんら。かんら。
 長春花が掘り込まれた朱塗りの下駄が立てる音が、高らかに誰もいない廊下を占拠する。
 かんら。かんら。かんら。
 ・・・・・・・夢の中の音と重なる。





 かんら。かんら。かんら。
 至る所に灯された篝火が轟々と燃え盛る様が、視覚にも聴覚にも嗅覚にも触覚にも五月蝿い。目に突き刺さるのは緋、耳に木霊するのは爆ぜる音、鼻をツンと刺すのはきな臭さ、肌を炙るのは熱。
 今にもその乱れ舞う腕を伸ばして引きずり込まんとする炎に囲まれた道を、彼女は歩む。
 夢なのに、嫌になるほど熱さを感じる。
 かんら。かんら。かんら。
「父の娘と母の娘、君はどっちだい?」
 どこからともなく、いや、炎の中から声が聞こえる。
 声は、彼女が聞き慣れた声にとても似ていて、全然似ていない。
 聞き慣れたあの声はちっとも五月蝿くないのに、この声は非常に煩わしい。
「世界宗教が概して父性的であるのは、元来母性的であった原始宗教に対抗して産まれたからなのだろうね。ミトコンドリアDNAによると人類の母はたった一人であるらしいから、地母神信仰は始原的なのさ。そもそも。なのに、胎内にあってすら母の腹を蹴らずにいられない不詳の息子たちは、天の父が世界を創造した神話を創ってしまった。その神話において、父なる神が最初に創り出した『人間』は男であったと語られている。が、しかし、これは後世の改悪だよ。神話が創作された当時、地母神信仰を持つ民を征服した父の息子たちには、女を全て無視できるほどの力はまだ無かったのさ。だから、本当は、最初に創られたのは、一対の男と女、神の息子と娘なんだ」
 声は勝手に喋る。
 大いなる存在から【火】を盗んだ簒奪者が炎の向こうで微笑む。
が、彼女は見もしない。
「でも、この娘が、父が愛する息子の言うことを聞かないのさ。当然だね、彼女は母の娘なのだから。だから、自らの分身を贔屓する自己愛に満ちた父は、娘を地に放った。そして、息子の骨で新たな女を創ったのさ」
 額に滲んだ汗を拭うこともせず、彼女は歩む。
 ただただ夢の終わりに向かって。
「新たな娘は従順で愚かであった。当然だね、それだけを望んで創られたんだから。それでやっと、無能な息子は安心したんだ。息子と娘はまぐあい、世に子らが満ちた。ところが、父は最初の娘を滅ぼしそこねていたんだ。最初の娘は父に反旗を翻した男との間に子を設けたんだ。以来、最初の息子の子が正義と名乗り、最初の娘の子が悪と呼ばれ、両者は争うことになったのさ。父の息子らにとって、自分達の秩序を乱す母の娘は、世界の敵というわけだね」
 かんら。かんら。かんら。
 彼女の夢はまだ終わらない。
「だがしかし、考えてみてくれ。最初に居たのは母なんだよ。男は、女の畸形なんだ。ならば、世界を乱し争いを持ち込んだ不届き者は、父の息子ではないのかい?僕は奴らとは違う。僕は、母の息子さ。そして、君は母の娘だ。ねえ、それなら僕たちの敵は同じじゃないのかい?」
  からからからから。からからからから。
彼女は足を速めた。
 清浄な光に満ちた空間に、後一歩で到達する。
「ねえ、アンナ?」
 炎のうちより伸びた手は、わずかの差で彼女の袖に触れなかった。

 そして、夢が醒めた。




 

 下駄を鳴らして歩いていたアンナは、やがて、安普請の建物の中庭に辿り着き、そこで寒中耐久マラソン(粉雪舞うのにTシャツ一枚)を命じられたはずの面々が幸せ顔で焚き火をしているのを見た。
なので、次の瞬間に懐から取り出した紙に巫力を注ぎ込み、式神を現出させ、そのゴツい手でツッコミを入れさせ、火を消させる。サボってしおかれた彼らは嘆いたが、彼女は頓着しない。焚き火に投じようとしていた芋も、没収しておく。
「ひでぇぞ、アンナ!そこまでせんでもいいじゃねえか」
「おだまりっ!あんたたちにはマラソンを命じておいたでしょ。さっさと行きなさい!」
「寒くて体が動かねえよ」
「バカね。こうすればいいのよ」
 アンナは情けない顔で弱音を吐いた葉に、ぐっと近づいた。葉が無意識に殴られることを警戒して身を固めたのに頓着せず、彼女はその腕を葉の背に伸ばして抱き締めた。アンナが葉の肩に頭を置くと、葉の体から緊張が抜けた。
「お、おお・・・」
 すかさず彼女の腰を抱き寄せるようにしてさらにお互いの身体を密着させた葉の目の端に、笑顔で去ってゆく気の利く仲間たちの姿が映った。葉も笑顔を返す。
 しばし、二人は、じゃれるようにして互いの体温を確かめ合った。それから、そのまま当たり前のように彼女の唇を求めた彼の顔を、彼女が手で遮った。
 葉は欲張り過ぎたかと焦ったが、アンナの瞳が潤んで頬が火照っていたので、これはダメのサインじゃないなと思い直す。
「ねえ、あたしが世界の敵に回ったらどうする?」
 葉には、アンナの唐突な問いの意図などわからない。
 葉にわかるのは、マラソンをサボって芋を焼いて食おうとしていたのを見つかったのに、火を消されただけで、殴られなかったどころか抱き締めてもらえたということだけだ。それと、アンナがキスを嫌がっていないということだけ、それだけだ。
 そして、彼にはそれで充分だ。
「どうもしねえ。オイラはお前と一緒にいる。戦ったり争ったりすんの苦手だけどな。でも、世界がお前を赦さんなら、そいつは世界が間違っとる。ま、そんなことは起こらんけど」
「どうして?」
 葉は笑う。
 葉は難しいことが苦手だ。正義も悪も。罪も罰も償いも。神も信仰も。どれもこれも葉は気にせず生きている。
けれど、一番大切なことはちゃんとわかっている。
 彼にとって一番大切なのは、アンナが此処にいること。そして、それが幸せだとわかっていること。
 だから。
「世界の一部であるオイラが、お前を赦しとるから。だから、お前は世界の敵に回るなんてこと、出来んのよ」
 そうして、幸せな二人は幸せなキスを交わした。





 あたしたちったら、とっくの昔にあの赫い実を食してしまった。
 いまや、楽園に還る道など見当たりもしない。
 
 でも、神様に赦されたいわけじゃなし?
 どこにも還らないあたしはあんたとどこまでも逝く。 




【終】
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